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福岡地方裁判所 昭和52年(ヨ)672号

申請人

筒井修

右訴訟代理人弁護士

有馬毅

被申請人

有限会社新光タクシー

右代表者代表取締役

野上藤三郎

右訴訟代理人弁護士

山口定男

立川康彦

森元龍治

主文

1  申請人が被申請人に対して雇傭契約上の権利を有する地位にあることを仮りに定める。

2  被申請人は、申請人に対し、金一六万〇、八〇五円及び昭和五二年七月以降本案判決確定にいたるまで、毎月一〇日限り金一三万六、三五〇円の金員を仮りに支払え。

3  申請人のその余の申請を却下する。

4  訴訟費用は、被申請人の負担とする。

理由

申請人は主文第一、第四項同旨及び「被申請人は申請人に対し金一六万〇、八〇五円及び昭和五二年七月以降本案判決確定に至るまで、毎月一〇日限り、金二一万九、五九五円の金員を仮りに支払え。」との仮処分の裁判を求め、被申請人は「本件申請を却下する。訴訟費用は申請人の負担とする。」との裁判を求めた。

(本件申請理由の要旨)

1  申請人は、福岡地区合同労働組合(以下組合という)の組合員で、被申請人はタクシー業務(一般乗用旅客自動車運送事業)を営む有限会社である。

申請人は、昭和五一年一二月二三日、乗務員として被申請人に雇傭され、就労していたところ、被申請人は、翌五二年四月二七日、申請人に三〇日前の予告をもって解雇を通告した。

その理由とするところは、申請人は試用期間中であるところ、被申請人の従業員として適格を欠く故に本採用とすることはできないというにある。

2  しかし、本件解雇(本採用拒否)は次の理由によって無効である。

イ  試用期間はすでに経過している。

ロ  申請人には解雇せらるべき理由がない。

ハ  本件解雇(本採用拒否)は、申請人が前記組合員でかつその役員(代表執行委員)として活発に組合活動を行っていることを嫌い、これを決定的理由として行われた不当労働行為である。

3  そうして被申請人は、昭和五二年五月二八日以降申請人の就労を拒否し賃金も支払わない。

4  更に被申請人は、右解雇予告期間中である同年四月二八日、申請人が行った正当な抗議行動(点呼の際の座り込み)を理由に、出勤停止二日の懲戒処分を行った。この処分は、同年六月二七日撤回されたが、右出勤停止期間の深夜手当分の賃金を支払わない。

また、被申請人は、同様予告期間中である同年五月八日、申請人が組合役員として行った正当な組合活動(団体交渉要求、争議行為開始通知等)に対し、業務妨害、職場占拠を理由に出勤停止七日の懲戒処分を行った。この処分も、何等懲戒事由に該当する事実はないのに、申請人が行った正当な組合活動を嫌い、これを理由として行われた不当労働行為であって無効である。しかるに被申請人は、右出勤停止期間中申請人の就労を拒み、賃金を支払わない。

5  被申請人の賃金は、一カ月分をその翌月一〇日に支払われることになっていた。

本件解雇及び各懲戒処分がなければ申請人が支払を受ける賃金は、次のとおりである。

イ  被申請人は、一カ月一三乗務を満勤とし、その場合の乗務員の賃金は、その月の運賃収入の四八・三%である。そうして、申請人の昭和五二年二月分の運収は一一業務で二七万〇、八九〇円、同年三月分の運収は一二乗務で三一万八、一五〇円であった。よって、その間の一乗務当りの平均運収は二万五、六一〇円である。

ロ  申請人はこれまでタクシー運転手の経験がなく、不慣れであったが、昭和五二年六月以降は仕事にも慣れ、約二〇%増しの運収をあげることができる。また、同月以降は運賃も平均一七・四%値上げされ、福岡市乗協の試算によれば、一三・八%の増収が見込まれる。従って、同年六月以降の申請人の一カ月の運収は、一三乗務として四五万四、六四九円となることが明らかである。

よって、同月以降の申請人の賃金は一カ月二一万九、五九五円となる。

ハ  被申請人は申請人に対し、同年四月分(五月一〇日支払)、五月分(六月一〇日支払)の賃金を支払うに際して、前記四月の出勤停止に関する深夜手当分、前記五月の出勤停止期間相当分をカットして支払おうとした。これは、債務の本旨に従った弁済の提供ではないので、申請人は受領を拒否した。従って、同年四、五月分の賃金請求権も消滅していないところ、その金額は各一六万〇、八〇五円となる。

内訳 二五六一〇円(二、三月の一乗務当り平均運収)×一三(満勤乗務数)×〇・四八三(賃率)

ニ  よって申請人は、被申請人に対して、前記四、五月分の各一六万〇、八〇五円、六月分以降毎月二一万九、五九五円の各賃金債権を有する。

6  申請人は、賃金によって生活を維持するほかはない労働者で、現在妻と子一人との三人家族である。そうして、被申請人が申請人との雇傭契約関係の存続を否定し、賃金の支払いをしないため、一カ月約一〇万円の妻の収入によって生活を維持しているが、現在の経済情勢からみて、とうてい長期にわたって生計を維持することはできず、本案判決確定までまつときは、申請人の生活は破壊され、回復できない損害を蒙ることとなる。

7  よって、申請人が被申請人に対して雇傭契約上の権利を有する地位にあることを仮りに定めると共に、昭和五二年四、五月分の賃金の内金一六万〇、八〇五円及び同年六月分(支払日七月一〇日)以降の賃金の仮払いを求める。

(被申請人の答弁ないし主張)

1  被申請人の業務内容、及び採用年月日の点を除いて被申請人が申請人を雇傭したことがある(但し試用)事実は、申請人の主張を認める。

2  被申請人は、申請人がタクシー乗務員として採用されることを求めて来たが、同人が二種免許を保有していなかったので、直ちに雇傭することなく、まず教習契約を締結した。

右教習契約は、昭和五一年一二月二三日締結され、これによって申請人は教習生となったが、その目的は被申請人が申請人に教習費を支給してタクシー乗務員として必要な第二種免許を取得させることにあった。

3  その結果、申請人は昭和五二年一月二八日、第二種免許を取得したので、被申請人は、同年二月一日、申請人を試みに採用した。

4  就業規則によれば、被申請人における試みの採用期間は原則として三カ月である。そうして、そのあと、被申請人は勤務成績、勤務態度を考慮し、乗務員労働者として適性があると認めるときは、当該労働者を本採用することになっている。このことは、申請人も承知の上で入社している。

5  しかるに、申請人の試用期間中(但し同年四月二七日)までの勤務成績、勤務態度は不良であって(ほとんど毎日の遅刻、合計八日間の欠勤、平均を常に下まわる運収等)、タクシー乗務員労働者としての適格性を認めることができなかった。よって、被申請人は、申請人を本採用しないことに決定し、申請人主張の如く、予告期間を付して解雇を告知した。

6  不当労働行為に関する申請人の主張は全て否認する。被申請人は、申請人がその主張の如き組合に所属していることや、組合活動を行っていることなど全く知らなかった。

当裁判所の判断

1  被申請人が申請人主張の如くタクシー業務を営む有限会社であること、被申請人が、採用年月日の点を除いて、申請人を雇傭(但し試みの採用)したことがあることは、当事者間に争いがない。そうして、本件疎明資料並びに審議の全趣旨にてらすと、以下の事実が認められる。

(一)  教習契約

被申請人は、福岡市内の同系四社をもって、指導管理室を設置し、その各社にタクシー乗務員(運転者)として雇傭されることを求める労働者が、第二種免許を受けていない場合は、まず教習契約を締結し、教習を行って第二種免許を取得させていた。

そうして、右教習生には被申請人が教習費を支給し(試験合格時に二万五、〇〇〇円、免許証交付時に二万五、〇〇〇円)、教習生は一カ月の期間内に第二種免許を取得しなければならず(但しその間に試験に合格したときは、免許取得時まで期間が延長される)、免許を取得した教習生は、被申請人が不適格と判断した場合を除いて被申請人に採用され従業員となることになっていた。また、免許が取得できないときは、被申請人から教習契約を解除され、教習費はこれを返還すべきものとされていた。

申請人は、昭和五一年一二月二三日、被申請人との間に教習契約を締結して教習生となり、所定の教習をうけて同月二四日学科試験に、昭和五二年一月一三日実技試験に合格した。

以上の通りであって、教習契約は、将来における雇傭を前提として締結されることは認められるが勿論雇傭契約ではなく、申請人が昭和五一年一二月二三日に被申請人から雇傭されたとする申請人の主張は、採用できない。

(二)  雇傭関係のはじまり

被申請人は第二種免許試験に合格した教習生が希望するときは、免許取得(免許証交付、道交法九二条参照)の前でも出勤を認め、社内の雑用を行わせて日給を支給していた。

申請人も、前記実技試験合格の翌日(一月一四日)、これを被申請人に報告して免許取得前に勤務することを希望し、被申請人もこれを承諾して同月一七日から出勤させ、日報、タコグラフの整理、電話番、車内の忘れ物の整理、当直等の仕事をさせて日給二、八〇〇円を支給した。そうして申請人は、一月二四日から四日間、社内講習をうけ(自動車運送事業等運輸規則第二五条の七、第二項参照)、一月二八日第二種免許を取得し、更に二月一日付で同規則第二五条の八、第二項の乗務員証が発行され、その頃から乗務員としてタクシー運転の業務に従事した。

してみると、被申請人は、免許を取得した後に採用という教習契約の内容にかかわらず、申請人との合意により、申請人をおそくとも一月一七日には雇傭したものと認めることができる。もっとも、前記のいきさつからみて、申請人が合格した試験によっても免許をうけられないことを解除条件としたか、あるいはその場合の解約権を留保したかそのいずれかであろうことは推認されるが、いずれにせよ申請人は免許を取得したことにより、その点での解雇は免れることになったと認められる。

(三)  試用期間

被申請人の就業規則には、試用につき次の如き規定がある。

第二一条「会社は前条の手続きをしたものに対しては第一次に書類選考及び面接試験を行ない合格点に達した者に対しては第二次に身体検査及び筆記試験、適性検査を課して合格者の決定を行なった上、従業員として試採用(以下「試用」という。)する。」

第二四条「第二二条の従業員の試用期間は原則として三カ月とする。但し会社の都合又は本人の勤務成績等に依って期間を延長することがある。」

第二五条「試用の期間を経過したときは、選考の上本採用の可否を決定する。」

なお、右第二四条にいう「第二二条の従業員」とは、「試用者として決定され」、「労働契約」を締結した者をいう(同第二二条)。

そこで被申請人の従来の運用をみると、被申請人は事務の都合上、試用中の従業員は月の一日に本採用とすることとし、試用期間の前記「原則として三カ月」とは、月の中途で三カ月の期間が満了しても直ちに本採用とすることなく、その満了の日の属する月の末日まではなお試用期間とする趣旨に解釈運用していたことが認められる。

そうして、これまで、この運用につき従業員又はその組織する労働組合(後記参照)から異議があったことを認めるに足る疎明資料はなく、被申請人は右の趣旨による試用期間の終りにいたってなお就業規則第二四条但書の延長を為すときは、その旨、当該従業員に告知していたことが認められる。

右の如き就業規則第二四条本文の運用によると、職種や当該労働者の資質に関係なく試用期間に長短を生じる点はあるが、労働者の適性を判断するための期間という試用期間の趣旨に反して不合理に長期にわたったり、使用者の恣意によってその期間が定められたりしない限り、試用期間をどのくらいとするかは就業規則の作成にあたって使用者の裁量が許されると解されるところ、本件の場合試用期間は試みに採用された日によって機械的に決定され、試用期間は三カ月をこえても四カ月に満たず、企業の多くが三カ月ないし六カ月の範囲内で試用期間を定めていることは顕著な事実であり、「原則として三カ月」を以上のように解釈運用することは、文理上は無理としても、これまでの被申請人における労使間の運用状況にてらして右のような趣旨に解釈運用することは必ずしも出来ないことではないから、この運用を直ちに無効とすることはできない。

申請人の場合、被申請人はこれを昭和五二年二月一日に試採用したものと主張するが、その主張は前記により採用できない。しかし、右の如き就業規則の解釈運用によれば、試用期間の終りは同年四月末日となり、被申請人は、昭和五二年四月二七日申請人に対して、三〇日の予告期間を付して解雇を告知した事実が認められるから、右が告知されたときは、いまだ申請人の試用期間は満了していなかったものである。よって、この認定に反する申請人の主張も採用できない。

(四)  解雇の効力

試用期間は、労働者の技能、勤務態度、性格等を観察し、当該労働者が雇傭契約によって定められた業務に従事する従業員としての適格性を有するか否かを使用者が判定するための期間である。そうして使用者がその判断を為し、本採用とするか否かを定めるについては、当然一定の裁量が認められるわけであるが、それは客観的にみて右試用期間が認められる趣旨にてらして合理性がある基準によった裁量でなければならない。

そこで、被申請人は、右解雇の理由として、前記の如く申請人の勤務成績、勤務態度の不良を主張するので、この点を判断する。

イ 遅刻について

就業規則上早出の乗務員(申請人はこれに属していたと認められる)の始業時刻は午前七時三〇分である。そうして、被申請人が申請人に交付した解雇予告通知書によると「始業点呼時間七時三〇分までの出勤が試用期間中の半数以上についてなされていない。」と記載されている。

そこで始業点呼の状況をみるに、点呼は一応定刻に行われるにしても、早出又は遅出の全乗務員を一室に集めて行うほどの場所もなく、始業時刻の前後にいわゆる流れ点呼的に行われ、乗務員については始業・終業の時刻よりも水揚げ高が重視されていた。これは歩合給である関係で乗務員の側についても同様で、申請人を含む乗務員らはおおむね始業時刻頃出社し逐次点呼をうけ、運行管理者から乗務に必要な書類やキイ、釣銭用の金銭等を受取り始業点検を行っておおむね八時頃出庫していた。

乗務員については、タイムレコーダーによる出勤時刻の確認も行われておらず、申請人が午前七時三〇分までに始業点検をうけていなかったことがしばしばあったことは認められるが、それは他の乗務員と同程度であって、被申請人がそのために特にこの点を申請人に注意した事実は認められない。昭和五二年二月から四月までの申請人の勤務表(<証拠略>)には勤怠欄があり遅刻を記入するようにもなっているがそこには何の記載もない。申請人が特に他の乗務員にくらべて始業点呼を常におそくうけていたり、実際の就業時間が短かかったといった事実を認めるに足る疎明資料はない。

ロ 欠勤について

申請人は、昭和五二年二月に三日、同三月に三日、同四月(但し二七日まで)に二日の欠勤があった。但し乗務員は早出の場合午前七時三〇分から休憩時間合計二時間三〇分を含んで翌日の午前二時までを一乗務とし、一カ月一三乗務をもって満勤とされていて、一乗務の欠勤は欠勤二日として計上される。

申請人の場合前記合計八日の欠勤のうち、二・五乗務分(五日間)は病気により、他は申請人が代表執行委員である組合に関する用務のための欠勤であった。

就業規則第一九条には「病気その他やむを得ない事由によって欠勤する場合は、所定の様式二号によって所属長に願い出て承認を得なければならない。又病気欠勤が継続して五日以上に及ぶときは前項の欠勤届のほか医師の診断書を提出しなければならない。」との規定がある。

しかし、被申請人の場合、五日以上にわたる病気欠勤のような場合は別として、通常は電話による届出も許容されていたところ、申請人は前記欠勤についていずれも電話等の口頭届出で被申請人の了承を得ていた。但し、組合用務の場合は、他の用件に仮託して届出が為されたことが認められるが、これは申請人が被申請人の従業員が従前から属していた労働組合(同盟系交通労連所属の組合及び総評系全自交に属する組合)のいずれにも属さない別個の組合(前記福岡地区合同労組……申請人はその代表執行委員)に属していたため、被申請人から警戒され不利益な扱いをうけることをおそれて本件解雇まではこれを秘匿していたことによる。就業規則第四一条によると、年次有給休暇は労基法第三九条によって与えられることになっていたため、雇傭されて一年未満の申請人は、年次有給休暇を利用することもできなかった。

また、被申請人の場合、試用期間中に本採用に適しないとして解雇された最近の事例中、被申請人がその理由の一つとして欠勤を明示しているのは別紙の通りである。

ハ 運収について

申請人の各月の一乗務あたり平均運収は次のとおりであった。かっこの中は全乗務員の同期間の運収の平均である。その下は順位である。

昭和五二年二月 二万四、六二六円

(二万七、〇一五円)一二五人中八八位

同三月 二万六、五一二円

(二万八、五六四円)一二九人中八三位

同四月 二万三、九〇六円

(二万六、九二三円)一二三人中一〇一位

なお、右の順位を一〇〇人中の順位に換算すると、二月は七〇・四、三月は六四・三、四月は八二・一となる。

以上認定の事実にてらすと、被申請人が申請人を適格性なしとして為した解雇は、客観的にみて合理性がある基準によらない裁量であって社会通念上相当として是認し難いと判断するのが相当である。

即ち、被申請人は、もともと乗務員に対して午前七時三〇分の始業を厳しく要求していた事実はなく、前記認定の如き実情のもとでは申請人が始業点呼を右時刻までにうけなかったことがしばしばあるとしても、乗務員労働者としての適格性を欠くとする理由とはなし難い。

欠勤については、別紙記載の3ないし5の場合は欠勤の態様、欠勤率について格段の相違があって、同列には論じ得ない。但し、若し1、2の解雇が相当とされるものであれば、申請人の解雇もやむを得ないかも知れないが、審尋の結果によると、被申請人の従業員の場合、長欠者を除く平均の欠勤日数(但し年休利用を含む)は一カ月当り二日弱、年休を除くと一日程度と認められる。そうだとすると、別紙記載の1、2の場合、もともと年休を利用し得ない試用期間中の従業員であることを考えると、(年次有給休暇が労働者に認められる趣旨はしばらく措くとして、病気その他やむを得ない事情によって休務を要する事情は、年休権の有無とは無関係に発生し得る)特に他の従業員にくらべて出勤不良とは断定し難いとみるのが相当と思われる。もっとも、欠勤をもって勤務成績を評価する場合、その欠勤理由が考慮されなければならないが、右1、2の場合この点を判断するに足る疎明資料はないから、以上はあくまで外形的な事実のみに基く判断である。

更にまた(証拠略)によると、右別紙記載の1、2とくらべては勿論、申請人とくらべても欠勤日数が多い者が、それだけでは本採用拒否となっていないことも認められる。

即ち、昭和五一年六月一日入社した瀬能敏美は六月は満勤であったが七月に六日、八月に八日欠勤した。水揚げ順位も六月は一二一人中九二番、七月は一二七人中五八番であったが八月には一二九人中一二五番に落ちた。しかし解雇されることなく試用期間が延長され、九月に六日、一〇月に一一日欠勤するに及んで一一月に技能、勤務状況著しく不良として解雇された。また右瀬能と同日に入社した古野一二三の例をみると、六月に四日、七月に二日、八月に六日欠勤したが解雇されることなく試用期間が延長され、九月に一一日、一〇月は二六日欠勤するに及んでその翌月前同様の理由で解雇された。また昭和五一年一〇月一日入社した水俣(別紙記載の4)も、一〇月に一〇日、一一月に一四日欠勤(一二月は満勤)しながら試用期間を延長され別紙の通り無届欠勤が出るに及んで解雇された。

このようにみて来ると、欠勤日数についての申請人に対する扱いは、右の瀬能、古野、水俣らの場合にくらべて著しく権衡を失し、一定の客観的な合理性ある基準に基いて処理されているとは理解し難いといわざるを得ない。

水揚げについては、タクシー乗務員としての経験が大きく影響すると思料されるところ、申請人は前記の如く被申請人に雇傭されてはじめて第二種免許を取得したものであり、それまでは全く未経験であった。申請人が水揚げ順位において下位であったことは前述のとおりであるが、しかし最下位というわけではなく、二カ月目はある程度の伸びも認められるわけである。してみると、三カ月目に低下した事実があるにせよ直ちに不適格と判断しなければならなかったのか(この扱いは前記瀬能の場合にくらべても釣合いがとれていない)にわかに肯認し難いといわなければならない。

更に、本件については、申請人が前記の如く組合関係を秘匿しており、被申請人は、申請人の組合関係は解雇予告の段階では何も知らなかったと主張しているにもかかわらず、被申請人が第三者を通じてこれを知り、申請人主張の如き不当労働行為の意思をもってこれを解雇したのではないかと推認する点について、その趣旨にそう疎明資料もないわけではない。

しかし、右の問題は暫らく措くとしても、本件解雇は、あるいは他の試用員の場合にくらべて著しく権衡を失し、被申請人が主張する適格性欠如の事由のうち、すくなくとも遅刻の点は肯認することができず、その余の事由も客観的に合理性が認められる基準によったとは認め難く、結局社会通念上相当として是認し得る解雇権の行使(本採用拒否)とはいえず、解雇権を濫用した違法があって、無効と判断するのが相当である。

(五)  懲戒処分について

申請人は、解雇予告の翌日(昭和五二年四月二八日)、始業点呼の際起立せず、起立の指示にも従わなかったということで、出勤停止二日の懲戒処分をうけた。しかし、この処分は被申請人が援用した就業規則上の懲戒事由(第七一条二号「業務上の指示命令に従わなかったとき。」及び第七二条八号「風紀紊乱等によって職場規律をみだし、他の従業員に悪影響を及ぼしたとき。」もしくはこれらに準ずる場合)につき当該処分に付することができる旨の規定がなく、被申請人は同年六月二八日、これを取消した。

次に、申請人は、同年五月八日正午頃、本件解雇について団体交渉を求め、弁護士及び福岡地区合同労組員三名ぐらいと共に、被申請人の迎博視営業部長に面会を求めた。これに対し、迎部長は、部外者(申請人以外の組合員)や組合の宣伝カーが構内に入って抗議放送をしていることを理由に、その退去を求め、申請人らはこれに抗議した。結局約一時間くらいの後申請人以外の組合員らは構内から退去したが、被申請人は、この申請人の行動が、就業規則第七〇条一〇号の「会社の施設内において許可なく貼紙又は印刷物の配布等をしたとき」に「準ずる違反行為があった……」場合(同一二号)にあたるとして、七日間の出勤停止処分をした。

以上の通りであって、前者は処分が取消されたため、その効力はなく、後者は前後の情況からみて右認定の程度では被申請人主張の如き就業規則違反が成立するとは認められない。従って、これも就業規則の解釈適用を誤った処分として、無効と判断するのが相当である。更に、後者について、仮りに就業規則の当該条項に該当する場合にあたるとしても、本件は元来無効な申請人に対する解雇が原因となって発生した事件と認められ、本件七日間の出勤停止処分は、懲戒権を濫用したとの非難を免れない。

(六)  賃金について

してみると、申請人は、本件解雇及び各懲戒処分がなかった場合に支払われたであろうと同一の賃金を受けられるところ、その金額は、申請人主張の計算方法によらず、処分がなかった二月分の賃金一三万〇、六六四円と、三月分の賃金一四万二、〇三七円との平均額一三万六、三五〇円(円未満切捨て)の限度でこれを認めるのが相当である。

申請人は、被申請人が四、五月分の賃金を支払うに際して、四月分については二日間の出勤停止期間に相当する深夜手当を、五月分については七日間の出勤停止期間に相当する賃金を、夫々カットしたため、これを不本旨弁済であるとして受領しなかった。

しかし、被申請人は、これに対して供託したことの疎明はないから、四、五月分の賃金債務は、受領遅滞の有無にかかわらずいまだ消滅していないことになる。また、前記のとおり、被申請人は、申請人に対して、同年六月分以降の賃金も支払うべき義務がある。

(七)  申請人については、その主張の如き理由により、本件仮処分の必要性を肯認することができる。

2  よって、本件仮処分の申請は、不当労働行為の成否については判断するまでもなく、申請人が被申請人に対して、雇傭契約上の権利を有する地位にあることを仮りに定めること、賃金仮払いについては、昭和五二年四、五月分の合計二七万二、七〇〇円の内、申請人が請求する一六万〇、八〇五円の限度並びに同年七月に支払われる六月分以降月額一三万六、三五〇円の賃金の仮払いを命ずる限度で相当としてこれを認容し(無保証)、その余の申請は被保全権利の疎明がないから失当としてこれを却下することとして、民事訴訟法第九二条を適用し、主文の通り決定する。

(裁判官 岡野重信)

別紙

<省略>

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